[第2回]息子が絵本から感じ取ったもの

絵本で、息子とともにつらい経験をのりこえたこと

—それでは、絵本屋の店主であり、お母さんでもある浅井さんにとって、絵本とは何か、うかがってもよろしいですか?

浅井:わたしには32才になる息子がいます。わたし自身が長く絵本にかかわってきましたし、幼い息子にも、自然な流れで読んでやっていました。


幼稚園時代、息子はつらい思いをしていました。イジメを受けていたんです。
打ち明けることはありませんでした。でも、夫とわたしは”何かおかしい”と感じていました。

ある日、谷川俊太郎さんの詩を読んでやっていたときのことです。神様がいろんなものをあたえてくれる、という内容でした。
そのとき、息子がポツンと言ったんです。

「ボクにはあたえてくれない」
「どうしてボクは愛されていないのかな」

わたしには、何もしてやれなかった…。

でも、そばにいて、本を読んでやっていると、見えてきたんです。
息子の心のうち…、つらさ・悲しさ、そして、がんばって乗りこえようとしていること。

『ダンプえんちょう やっつけた』( 作 ふるたたるひ たばたせいいち 1978年)は、気の弱い女の子が集団の遊びの中で成長し、強くなっていく物語です。
読み聞かせるうちに、息子が主人公の女の子に心をかさね、応援しているのがわかりました。
勇気を出して青い海に飛び込むシーンでは、ページを喰いいるように、いつまでもいつまでも見つめていました。


『ダンプえんちょう やっつけた』(1978年 作 ふるたたるひ たばたせいいち)

そののちに、息子はイジメを克服することができした。そこに「ダンプえんちょう」の影響は大きかったと思います。

—絵本が息子さんの心の扉をひらいてくれた、ということでしょうか?

浅井:乗りこえる勇気をあたえてくれたのかしら…。
本当に、親子ともどもすくわれました。
ごめんなさい、ちょっと思い出してしまって…。

浅井さん、涙をぬぐいます。アノコモスタッフもらい泣き…。


真実を読みとく子ども達のまっすぐなまなざし、ピュアなたましい
"読み聞かせのおねえさん"の思い出

—浅井さんも、お母さんに読み聞かせをしてもらったんですか?

浅井:いえ、実家は商店を営み、母は多忙で、「もっと読んであげればよかった、申し訳なかった」と、今でも思っているようです。

—では、浅井さんの活動の原点は何でしょう?

浅井:読み聞かせについては、とある文庫での出来事が忘れられません。

二十歳そこそこのわたしは”読み聞かせのおねえさん”として、子どもたちに『シマひきおに』(1973年 山下明生 梶山俊夫)を読み聞かせていました。人間と仲良くなりたいのに、それがかなえられない鬼の、悲しいお話です。
本当のことをいえば内心、”子ども向けの本じゃないな”と思っていました。
それでもこの本を選んだのは、自分のためでした。
もともと大好きな作品でした。そして、当時のわたしの心情に、"鬼"と近いものがあったからです。

「いわば自己満足のようなもの。子ども達にはわからないだろうなぁ」


ところがいざフタを開けてみると…。どの子もまっすぐなまなざしで、真剣に聞きいってくれて…。
あのときの子ども達の表情は、忘れられません。
この体験が、わたしの読み聞かせの原点になっていると思います。

—ご自身の心とかさねて読んだことで、それがいっそう子ども達にも伝わった、ということですね。

ちいさいおうちスタッフ:「子どもって、真実を嗅ぎ分ける力が、スゴいと思います。人がどんな思いでいるか、作家がどう作品に取り組んでいるか、ちゃんと見分けます。
いい作品は、完成されています。
作家は、深いメッセージをギュッと凝縮させ、子どもにも分かる簡潔な文章で表現します。これと挿絵が一体となってこそ、子ども達のピュアな心にとどくんです」


—自分が制作者側になることを想像してみると…。
本当に、スゴい仕事ですよね。


浅井:多くの作家さんは、それこそ命がけで書いてみえます。
たとえば中川李枝子さん(※1967年『ぐりとぐら』作者)は、幼稚園で子ども達とともに暮らし、表情や言葉づかいや遊びを観察し、その体験があったからこそ、子どもの心にすんなり入る、すぐれた文章を生みだすことができたんです。

<続きます!第3回は 2017/02/27 Mon に更新します>


子どもの本専門店「ちいさいおうち」について


「ちいさいおうち」では毎週、読み聞かせの会を開催。また「ちいさいおうちだより」を刊行し、本や詩を紹介するとともに、児童文学の研究会「バオバブの会」も主催してみえます。

※『ちいさいおうち』はバージニア・リー・バートンの名作。日本では1954年に石井桃子の訳で発行されました。
※お店のロゴマークを手がけたのは絵本作家の高畠 純さん。代表作に『わんわん わんわん』『おどります』『おとうさんのえほん』など。「ちいさいおうち」の看板には、池の面にうつった4軒の家と、ワンちゃんが描かれています。

  • ちいさいおうち
  • 〒444-0057 愛知県岡崎市材木町3-2
  • 営業時間:10:00~18:00
  • 定休日:水曜日
  • 公式ホームページ

【目次】浅井さんの絵本を通して知ったこと「言葉に頼らないから、いっそう通じ合う—。」

絵本と子育てとアノコモ


浅井さんのお話をうかがっていると、言葉だけではない、心と心のコミュニケーションの大切さを実感します。言葉をまだ話せない子どもと、言葉を持たない動物、だからこそ通じ合える関係がある。そんな心と心の関係を、この地域社会にも広めていきたいと、アノコモは考えています。


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